三叉神経痛 65歳男性 of 東京警察病院 脳神経外科医 楚良繁雄のページ

HOME > 三叉神経痛 65歳男性

私がNTT東日本関東病院脳神経外科で三叉神経痛•顔面けいれん専門外来を行っていたときの患者さんからです.

         三叉神経痛・私の治療体験    65歳男性

 平成21123日は私にとって忘れられない日となりました。13年間苦しめられてきた三叉神経痛の痛みから劇的に開放された日だからです。

(1)発症

平成7年(52歳)のある日の朝、顔を洗っていたときの事です。洗面台の前で両手に水を溜めて顔を擦るように洗っていた時、突然電気の走るような鋭い痛みが右目上の頭部に走りました。手を離すと痛みは消えましたが再び手で擦ると鋭い痛みを感じました。以来、毎朝顔を洗い、タオルで拭うたびに刺し込むような鋭い痛みが右前頭部に走りました。顔に触れたりしなければ我慢できないような痛みでもありませんでしたので放置しておきましたがそのうち髭を剃たり、歯を磨いているときも鋭い痛みが右唇上部にも走るようになりました。平成8年居住地の市民病院で診てもらいましたところ、MRI写真診断では脳に異常がなく症状から三叉神経痛と診断されました。

(2)薬による痛み対応

市民病院で薬(テグレトール0.2g)が処方されましたので1ヶ月くらい飲み続けましたが効果はよく判りませんでした。また同病院の麻酔科の診断も受け、当時痛んだ口周りに麻酔の注射をしてもらいました。しかし麻酔が効いている数時間位は痛みが消えますが麻酔が切れると再び痛みが出ますので麻酔科の受診を断念しました。その後、インターネットでの情報から三叉神経痛の痛みはきついが命に係わるような病気でないことを知って、少し気が楽になりましました。普段の三叉神経痛の痛みは鋭い痛みですがせいぜい5秒から10秒程度で長く続く痛みではありませんでしたので、多少の痛みは我慢することにしました。しかし仕事が忙しくなったり、出張が長くなったりすると痛みがひどくなり、話をしたり食事で口を動かしたりした時も痛み、仕事も手が付かなくなる事もありました。また振動や風の風圧でもピリピリした痛みを感じることもありました。その都度、テグレトールの服用でしのぎましたが服用中は数秒間の鋭い痛みは緩和されたような気が致しましたが継続的な重い鈍い痛みが残っておりました。また薬の服用は眠気や身体が重く感じ、すっきりした気分にはなりませんでした。冬の寒い季節には痛みがきつくなることも多く、そんなときは首のマッサージをやったり、風呂に入って熱めのお湯で痛みのひどい顔や頭部を温めて痛みを緩和させました。仕事の忙しい時期が過ぎ、落ち着いた生活に戻ると痛みの頻度も減少し、薬を服用しなくても我慢出来る状態に戻りました。

(3)一大事

平成10年末55歳で脱サラして友達と新しい仕事を始め、台湾へ出かけて仕事をするようになりました。その間も特に強い痛みを感じることもありませんでしたのでテグレトールの服用も止めておりました。平成13年、長年の喫煙習慣のためか台湾で喉頭癌が発見されましたので、日本に戻って放射線や喉頭摘出手術を受けて声を失いました。その後、東京の銀鈴会で食道発声のリハビリを受け、声帯に代わって食道の粘膜で発声する食道発声法を身につけ、再び会話が可能になりました。現在喉頭摘出手術を受けてから6年が過ぎましたが1年半位前まではほとんどテグレトールを口にする事はありませんでした。

(4)手術の決断

平成19年秋頃から再び強い痛みを頻繁に感じ始めましたのでテグレトール一日一回0.2g服用を再開しました。一日0.2g服用では電車など乗り物で眠くなる事はありましたが他に支障のある副作用は感じませんでした。しかし次第に薬を服用しても痛みが治まらず、痛みの質も数秒の痛みからだんだん持続性ある痛みに変わってきたような気がしました。また食道発声で話をし、食事をする時など口のまわりに痛みが走り、充分に口を開けて咀嚼が出来なくなっていました。痛む時は一回の食事に1時間半も掛かるようになりました。

いよいよ本格的治療の必要性を感じ、病院のホームページの情報で神経ブロック、脳内血管減圧手術、ガンマーナイフのいずれにも対応出来て、且つ三叉神経痛に対しての経験豊富な先生方がいらっしゃるNTT東日本関東病院の診察を受ける決心をしました。これらの治療法についての予備知識はありましたが今一その適用と効果は良く判らず、特に手術については脳の手術ということで恐怖心が先にたち、踏み切る勇気をなかなかもてませんでした。

三叉神経痛の原因のほとんどが脳幹から出ている三叉神経の根元に何らかの原因で血管が神経を圧迫して電撃的痛みを発生していると説明されておりますので、先ずはMRIの撮影で血管による圧迫を確認したいと思いました。平成2011月にNTT東日本関東病院脳神経外科を受診してMRI写真での確認後、三叉神経痛•顔面けいれん外来の主治医の楚良先生から「手術しましょうか?」と聞かれましたが手術の覚悟を決めていなかった私は戸惑い、もう少し様子をみてから考えることにしました。そのうち痛みが弱まり、テグレトールを服用するものの我慢の範囲に治まってきて、ある程度食事も取れるようになりましたので手術を数ヶ月先の平成213月に予約しておきました。この間に様子をみて手術の実行の是非を考えるつもりでした。しかし平成20年末のネパール旅行中に痛みがひどくなって食事も満足に取れなくなり、移動中の車の振動でも痛みが増してきました。帰国後すぐにNTT東日本関東病院へ楚良先生を訪ね、無理をお願いして平成21123日に手術をして頂くことになりました。手術を待つ間も痛みに耐えかねてテグレトールを一日2錠に増やしました。それでも痛みがひどく、3錠にしましたら床屋でひっくり返ってしまいましたので仕方なく手術までの間、何とか2錠で乗り切りましたが一日も早く何とかして欲しい状況でした。私の場合一日テグレトール0.21錠ならば眠気はあるが何となく身体がすっきりしないと言った程度でこれと言った副作用は感じませんでしたが2錠になると身体が重くややふらつきが出てきました。

(5)入院手術とその後

いよいよ手術という事で平成21122日(火)に病院に入り、再度のMRI撮影で右上小脳動脈血管が三叉神経を圧迫していると思われますと説明されました。手術前日には手術方法および脳内の神経が推測と違った場合の処置、軽度の合併症、極まれのケースですが重度の合併症、麻酔時の危険性などについて写真を使って詳しく説明を受けました。手術は三叉神経を圧迫している血管を剥離、変位させて顔面の痛みを軽減させるようです。手術は全身麻酔下で横向きに寝て頭を小さなピンで手術中動かないように固定します。一部髪の毛を剃り、耳の後ろを7cmほど切開してドリルで2~3cmほどの骨の窓をあけ、顕微鏡下で硬膜内の小脳を押し下げ、神経と脳の血管との関係を把握して、圧迫の原因となっている血管を剥離してテフロン繊維の固まりやスポンジで神経から離すようです。これらスポンジは後に残りますが生体との親和性が高く後に問題を起こす事が少ないそうです。私の場合は血管が神経をもろに圧迫して突き抜けるほどの圧迫があったそうですが5~10%は圧迫が見つからない場合もあるそうです。そのときは別の対応をするそうです。

   私は喉頭癌で気管切開しておりますので全身麻酔は気管孔からの吸入になりましたが麻酔吸入時は一瞬数秒間だけ呼吸が苦しくなります。すぐ麻酔で意識がなくなり、後は前述の手術をしたようですが全く意識はありませんでした。手術室にいたのは約3時間で名前を呼ばれ麻酔から目が覚めました。私は麻酔から目が覚めるとすぐに手術前に痛んでいた顔の上唇を動かしたたり、手で触れてみましたが痛みは完全に消滅していました。その後ICU室で酸素マスク、点滴、導尿管をつけたまま一日過ごし、翌日から病室へ移動しました。手術で器具が小脳に触れるなど結果、めまいや聴力低下など症状が現れる事があるということで入院中は眼球移動や聴力の検査などを頻繁にやりました。幸い私の場合は手術直後から全くそのような症状はなく合併症で悩まされる事もありませんでした。食事は手術前日の夕食から絶食となり、手術翌日の夕食から食べ始めましたが食欲も充分ありました。私は過去に喉頭癌の手術を経験していた為か終わってみれば考えていた手術よりはずっと楽な手術でした。今回の手術を通しての一番きつかった事といえばICU室にいる一日の間、ベッドから動けずじっとしている事ぐらいでした。今から思えば13年間も我慢しないでもっと早く手術しておけば良かったというのが正直な感想です。手術後はCT撮影で手術の状態を確認して問題はありませんとのことでした。手術の翌々日にはICU室から病室に移りましたが洗顔、トイレ、食事も一人ですべてできました。静脈血栓症予防の意味からも出来るだけ早くから動いた方が良いようですので入院後半は出来るだけ院内を散歩しました。手術後10日で退院し、現在2ヶ月半が経過しましたが今のところ全く問題がなく10数年ぶりに手に力をいれて洗顔することが出来るようになり、何か不思議な感じです。また耳の後ろの傷跡も普通に見たのでは全くわからないほど綺麗になっていました。長年付き合ってきた痛みから解放されて本当にありがたい事です。改めてお世話になったNTT東日本関東病院の主治医の先生方、看護師の皆さんには感謝いたします。本当に有り難う御座いました。 以上